国立病院機構 米子医療センター 病院長 久留 一郎
【はじめに】
新年あけましておめでとうございます。皆様お健やかに新しい年を迎えられたこととお慶び申し上げます。今年は辰(龍)年です。辰は十二支の中で唯一伝説上の生物です。
古くから「龍が現れると何かおめでたいことが起きる」と考えられてきました。
新型コロナ感染症が5類になって初めての年が辰年にふさわしい躍動の年となり、皆様にとって幸多い年そして発展の年となりますことを心からお祈り申し上げます。
さて、“龍”は知識の象徴であるとともに不老長寿の象徴ですので老化への抵抗力といった側面と関連付けられます。そこで“辰年”にちなんで老化と長寿について考えてみたいと思います。
【ヒトの老後には大切な役割があります】
後を生物学的に定義すると、生殖可能年齢を超えた時期となります。興味深い事に生物の中で老後の時期があるのはヒトとシャチとゴンドウクジラの3つの生物だけです。 つまりヒトは進化の中で老後を獲得し経験豊富なシニアになれた数少ない生物です。なぜ人はシニアになれたかという疑問の答えに「おばあちゃん」仮説があります。 赤ちゃんのお世話は大変ですので、子育ての経験がある「おばあちゃん」は産後の母体の回復期を献身的に支える救世主です。太古の昔、長寿になる遺伝子を持ったヒトがある種族に現れ、 おばあちゃんやおじいちゃんになることができて子育てに貢献し、その種族が繁栄したため長寿遺伝子を持つ集団が人類の多数派になったと考えられています。 技術が発展し文明が開化すると生活の知恵や共同体のルール作りやその伝授は集団にとって極めて重要です。シニアのいる集団が益々繁栄し、さらに寿命が延びました。 このようにシニアになれる能力を持った人たちが多数派を占め、ヒトは老後を獲得出来たと言われています。“龍”のようにシニアは知識や経験が豊富で教育熱心であり集団全体の調整役としてバランス良く振舞える大切な存在です。
【老化を防ぐ医学研究が進んでいます】
社会にとって大切なシニアが元気でいるためには老化を防ぐことが重要です。医学では不老長寿の研究が盛んに行われています。例えば、遺伝子であるDNAが傷つきDNAが短くなると老化がおこり、 これらのDNAの異常が加齢とともに蓄積して細胞の働きが悪くなります。そこでDNAの異常を起こりにくくすることで老化を押さえる研究が進んでいます。また老化した細胞は有害な物質を出し続け、 まわりの健康な細胞も壊します。この老化細胞を免疫の力や化学物質で取り除くと老化症状が緩和されることが実験で証明されています。 医学の進歩により将来は老化を確実に予防できる時代が来るかもしれませんが、現在の私たちの老化予防の“登竜門”は老化を防ぐ生活習慣を作ることです。
【当院はみなさんの健康長寿を支えます】
寿命の延長に従って老化が原因で発生する癌、脳卒中や心臓病が日本人の3大死因となりました。これらの疾患を防ぐには老化を予防する生活習慣が大切です。 江戸時代の健康と長寿のバイブルに貝原益軒という医師が書いた養生訓があり現代の老化を防ぐ生活習慣に通じます。過度な食欲を慎み、運動、栄養、 休息を過不足なく行う生活をすることを勧めています。2020年に入って新型コロナの影響で健診を受ける方が減少しました。養生訓では病気にならないように努力することの重要性が説かれています。 健診や病院の受診控えの影響で、癌や生活習慣病の早期発見が遅れ、そのケアが難しくなることが懸念されます。老化を防ぐ生活習慣を心がけ、 老化予防の“登竜門”である健診や定期的な通院を利用して元気なシニアを目指しましょう。さて、本年も当院は「地域の命を支える」という理念の実現に向けて確実で安全な診療・ケアを実践し、 患者さんの視点に立った良質な医療を提供できるように病院一体となって努力して参りますのでどうぞよろしくお願いします。