待望の新病院で診療開始
米子医療センター院長 M副 隆一
念願でありました米子医療センターの新病院が完成し、平成26年7月22日より新しい病院で診療を開始いたしました。振り返りますと、病院建て替え整備の火種は、当院が再生プラン病院に指定された平成19年に遡りますが、その経営改善計画にしっかりと盛り込まれています。再生プランを達成した後には、建て替え整備計画の策定と本部承認、基本設計と実施設計、建築起工から完成までの過程、電子カルテの選定から導入までの作業、そして最後に、新病院への大移動へと駒を進めてきましたが、いずれの段階にも幾多の難問が待ち構えていました。職員の皆様には、これらの難問に真摯に向き合い、課題を踏破して頂きましたことに、心より感謝を申し上げる次第です。
病院建物の耐用年数は39年とされ、これを超えた病院では、高度な専門医療を行うのに支障があるだけでなく、業務を効率化したり、療養環境を改善するのが困難になります。一般に、公立病院は税金で建ち、民間病院はほぼ借金で建てられると言われますが、国立病院機構の場合も、国立の冠は名ばかりで、国からの税金の補填は全くなく、建て替えに要した費用は全額返済していくことになります。したがって、整備計画の承認には、経営の安定性と償還計画の妥当性が重要な要素になりますし、これからも、地域の医療需要に適切に対応し、健全経営に努めていくことが求められます。
新病院では、基本理念を「地域の命を支える」とし、基本構想には「鳥取県で不足している医療の充実」と「県西部に欠けている医療の整備」の2つを掲げました。県全域で充実させるべき医療には移植医療を取り上げ、骨髄移植を中心とした「幹細胞移植センター」と臓器移植機能を持った「腎センター」を設置することにしました。また、保健医療計画で必要とされた緩和ケア病床が、県西部に整備されない状況が続いていましたので、「緩和ケア病棟」を整備することに致しました。さらに、高度専門化するがん化学療法の施行例が増加していることから、がん治療病棟に併設して「化学療法センター」を設置し、がん医療の体制強化を図ることにしました。
病床数は、緩和ケア20床を加えて270床となりますが、このうち94床(30%)、全138病室のうち94室(68%)を個室として整備しました。1階には小児科外来と救急外来を配置し、2階には各診療科の外来診察室と地域医療連携室が並び、3階以上が主に入院部門になります。専門医療部門としては2階に腎センター、4階に化学療法センターと幹細胞移植センター、5階に手術室とHCU、そして最上階の8階に緩和ケア病棟を配置しました。病院機能の面では、CT, MRI, RI,放射線治療器などの大型医療機器は全て更新し、内視鏡検査室も2室に増やしました。また、手術室に設置したフルHD術野カメラシステム(メディカルレコーダー)では、手術映像をモニタリング・配信できるだけでなく、記録・保存することができます。さらに、電子カルテシステムには、診療データ統合管理システムを組み合わせて、利便性を高めました。
新たな取り組みとして、「ホスピタル・アート」を取り入れ、外来の待合や病棟廊下の壁面に絵を描いてもらいました。森や川には心を癒す色があふれ、その中に居ると誰もが爽やかさを感じますので、「森の中:In the Forest」をテーマに表現して頂きました。不安や悩みを抱えておられる患者様に、森の中のイメージを感じて頂き、不安な心が少しでも和らぎ、前向きの気持ちで治療に臨んで頂けるよう願っています。また一方で、緊張の中で仕事する医療スタッフの皆さんにも、絵を通してほっと一息して頂き、気持ちがリフレッシュされる効果に期待したいと思います。
完成した新病院は、地域に頂いた「大きな宝」ですので、これを最大限に活かして、地域を支えるに足る「強くて、暖かくて、優しい病院」を築いて参りたいと思います。
おわりに、今後も旧病院の解体・外構工事および駐車場整備が続きますので、当面は新病院の北側にある「時間外出入り口」を仮玄関として診療を行って参ります。今しばらく、ご不便をおかけ致しますが、ご理解とご協力をお願い申し上げます。